発症1週間の突発性難聴 3回で聴力低下・耳鳴りが改善

70代・男性
担当鍼灸師:渡辺 賢司/東尾 静香

70代男性の患者様が、左耳の聴力低下と耳鳴りを主訴に来院されました。

症状が現れたのは、当院へ来院する約1週間前のことです。

それまでは大きな耳の異常を感じていませんでしたが、突然左耳の聞こえが悪くなり、同時に耳鳴りも気になるようになりました。

症状が続いたため医療機関を受診し、聴力検査などを受けたところ、突発性難聴の疑いと診断されました。

医療機関では、鼓膜内へステロイドを注射する治療が行われていました。

治療開始後、聴力低下と耳鳴りにはすでに一定の改善傾向がみられていましたが、まだ左耳の聞こえづらさと耳鳴りが残っている状態でした。

そこで、耳鼻科での治療を継続しながら、少しでも回復を後押しできる方法を探し、鍼治療を併用する目的で当院へ来院されました。

また、この患者様にはもう一つ、施術を行ううえで重要な背景がありました。

前立腺がんの疑いに対して抗がん剤治療を受けている最中だったことです。

そのため当院では、耳の症状だけでなく、治療中であることを踏まえて全身状態を確認しながら、身体への負担に配慮して施術を進めることとしました。

通院頻度・回数

週2回 計3回

施術と経過

●初診時の所見

初診時には耳周囲だけでなく、首・肩・顎を含めて身体の状態を確認しました。

特に目立ったのが、

  • 左耳後部の翳風付近の緊張
  • 顎周囲の筋緊張
  • 首の強い張り
  • 肩周囲の筋緊張

でした。

つまり、左耳だけに問題がみられたのではなく、耳を取り囲むように顎・首・肩まで広い範囲で緊張がみられる状態でした。

当院では、突発性難聴の患者様を診る際、このような耳周辺の筋肉の状態も重要視しています。

顎関節は耳のすぐ近くに位置し、首や肩の筋肉とも連動しています。

これらの部位が強く緊張した状態が続くことは、耳周辺の血流や身体全体の緊張状態を考えるうえでも、一つの着目点になると考えています。

一方、患者様は抗がん剤治療中でもありました。

そこで局所へ強い刺激を加えるのではなく、骨盤・手・脚のツボを利用し、身体への負担に配慮しながら全身を整えることを施術方針としました。

● 施術後の経過

【第1回目】

初回は、骨盤・手・脚にあるツボを中心に鍼施術を行いました。

耳そのものへ集中的に鍼をするのではなく、離れた場所にあるツボを使いながら、初診時に強く認められた顎・首・肩・翳風付近の緊張を整えることを目的としました

施術後に再度身体を確認すると、翳風付近をはじめ、顎・首・肩の筋緊張が緩和していました。

この段階では、耳の症状そのものについて大きな変化を判断することはできませんでした。

しかし身体には良好な反応が確認できたため、医療機関での治療を継続してもらいながら、同様の施術方針で経過をみることとしました。

【第2回】

2回目も、身体への負担を考慮しながら骨盤・手・脚を中心とした施術を行いました。

初診時と比較すると、耳周囲だけでなく顎や首肩の緊張も和らいでいました。

耳鼻科での治療も並行して行われており、左耳の聞こえ方や耳鳴りについても徐々に良い方向へ変化しているとのことでした。

症状が再び強くなるような変化もみられなかったため、同じ施術方針を継続しました。

【第3回】

3回目の来院時には、患者様から

「聞こえも耳鳴りもかなり良くなりました」

との報告がありました。

当初気になっていた左耳の聴力低下だけでなく、耳鳴りについても大幅な改善を実感されていました。

施術期間中に症状の再燃や新たな耳症状も認められず、良好な状態となったため、計3回で一連の鍼施術を終了しました。

特に効果のあったツボ(施術部位)

膀胱兪

骨盤周囲のバランスを調整し、顎関節を整える目的で使用しました。

養老

手首から顎関節を整える目的で使用しました。

精霊

上半身、特に顎や肩周囲の緊張を調整する目的で使用しました。

三陰交

下腿から身体全体のバランスを整える目的で使用しました。

陰陵泉

下半身や腹部を含めた全身の緊張を調整する目的で使用しました。

 

※以上のツボ以外にも合計10か所以下を施術

当院(鍼灸TAKA)の考察

今回の症例で最も重要なポイントは、耳鼻科での治療を中断して鍼治療へ切り替えた症例ではなく、医療機関での治療と鍼治療を並行して行った症例であることです。

患者様は発症後に医療機関を受診し、突発性難聴の疑いと診断され、鼓膜内へのステロイド注射を受けていました。

その段階ですでに聴力と耳鳴りには改善傾向がみられていました。

そのため今回の経過について、3回の鍼治療だけによって聴力や耳鳴りが改善したと判断することはできません。

むしろ、

「耳鼻科で必要な治療を受けながら、鍼治療を補完的に併用した結果、良好な経過をたどった症例

と考えるのが適切です。

 

これは、これまで当院でご紹介してきた突発性難聴の症例の中でも重要な意味を持っています。

突発性難聴に対する鍼治療は、病院での治療とどちらか一方を選ばなければならないものではありません。

当院では、まず耳鼻科で必要な検査や治療を受けることを大切にしています。そのうえで、首肩や顎など身体の緊張が強い場合には、鍼治療によって身体側から回復しやすい状態を整えていくという考え方です。

今回も初診時には、翳風付近だけでなく、顎・首・肩に広範囲の筋緊張が確認されました。

初回の鍼治療後には、耳の聞こえそのものより先に、これらの筋緊張が緩和しました。

その後、医療機関での治療と並行して鍼施術を継続したところ、3回目には聴力と耳鳴りの両方について大幅な改善を実感されました。

 

もう一つ、この症例で特徴的なのが70代という年齢です。

一般的に突発性難聴の予後には、発症から治療開始までの期間だけでなく、年齢、初診時の聴力低下の程度、めまいの有無、基礎疾患など複数の要因が関係します。

前症例では、発症から2週間以上経過していても30代という比較的若い年齢であったことが、短期間での改善に関係した可能性について考察しました。

一方、今回の患者様は70代です。

さらに、前立腺がんの疑いに対する抗がん剤治療中という全身的な背景もありました。

それにもかかわらず、発症から約1週間という比較的早い時期に耳鼻科での治療と鍼治療を開始できたことは、良好な経過につながった一つの要因だった可能性があります。

 

つまり今回の症例は、

年齢が高い場合でも、早い段階で適切な医療を受け、身体の状態に合わせて鍼治療を併用することで良好な経過をたどるケースがある

ことを示した一例と考えています。

ただし、抗がん剤治療中の患者様への鍼治療では、通常以上に慎重な判断が必要です。

治療内容や全身状態、血液検査の状態などによっては鍼治療が適さない場合もあります。そのため、すべての抗がん剤治療中の方に同じように施術できるという意味ではありません。

今回も患者様の全身状態を確認しながら、刺激量に配慮して施術を行いました。

耳鼻科で治療中の突発性難聴でお悩みの方へ

突発性難聴と診断された場合、

「病院の治療が終わってから鍼治療を受けた方がよいのか?」

と質問されることがあります。

しかし、必ずしも病院での治療がすべて終了するまで待つ必要があるとは限りません。

今回の患者様は、発症から約1週間の段階で、鼓膜内ステロイド注射による治療と並行して鍼治療を開始しました。

その後、計3回の施術期間中に聴力と耳鳴りは大幅に改善しました。

もちろん、この改善には医療機関で行われた治療の効果も含まれていると考えるべきです。

だからこそ当院では、耳鼻科での治療を否定するのではなく、必要な医療を受けながら鍼治療を補完的に取り入れるという考え方を大切にしています。

特に、

「ステロイド治療を始めているが、まだ聞こえづらい」

「耳鳴りが残っている」

「首や肩、顎も強く凝っている」

といった場合には、身体全体の状態を整えるという観点から鍼治療を検討する方法もあります。

突発性難聴は時間の経過が重要な症状です。

まずは速やかに耳鼻科を受診し、そのうえで鍼治療を希望される場合には、病院での治療がすべて終わるまで長期間待つのではなく、早い段階から併用できるかをご相談ください

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