発症約2ヶ月の突発性難聴 鍼施術後に聴力回復

50代・女性
担当鍼灸師:渡辺 賢司/東尾 静香

50代女性の患者様が、右耳の聴力低下と耳閉感を主訴に来院されました。

最初に耳の異変を感じたのは、当院へ来院する約2ヶ月前のことです。

右耳に耳鳴りと耳が塞がったような耳閉感が現れ、さらに音が二重に聞こえるという症状も感じるようになりました。

同じ音を聞いているにもかかわらず右耳だけ違った音として聞こえるような違和感がありましたが、この時の症状は約1週間で自然に消失しました。

そのため、一度は耳の状態が元に戻ったと考えていました。

ところが、それから約1ヶ月後、再び右耳に異変が現れます

今度は以前とは症状の出方が異なり、低い音が聞こえにくいと感じるようになりました。

そこで医療機関を受診して聴力を調べたところ、右耳の聴力低下が確認され、突発性難聴の疑いと診断されました。

医療機関ではステロイドによる治療を受けましたが、患者様の自覚としては大きな変化がみられませんでした。

当院へ来院された時点でも、

  • 右耳の聴力低下
  • 右耳の耳閉感

が常に残っている状態でした。

幸い、仕事や日常生活ができないほどの症状ではありませんでしたが、「右耳だけ聞こえ方がおかしい」「耳が詰まった感じが取れない」という状態が続いていました。

また、耳の症状とは別に慢性的な肩こりも自覚されていました。

初診時には耳だけではなく、首や肩を含めた身体の状態を確認したうえで施術方針を決めることとしました。

通院頻度・回数

週2回 計2回

※突発性難聴に関連する症状が改善した後は、別の身体の悩みに対する施術を継続しました。

施術と経過

●初診時の所見

初診時に身体の状態を触診すると、特徴的だったのが、

  • 右耳後部の翳風付近の緊張
  • 肩上部の強い緊張

でした。

特に患者様自身にも肩こりの自覚があり、触診でも肩周囲の緊張が確認できました。

当院では突発性難聴や耳閉感などの症状に対して、耳そのものだけを見るのではなく、耳の後ろから首・肩・肩甲骨周囲までの状態を確認します。

耳の周囲と首肩は位置的にも近く、身体の緊張状態を評価するうえで重要な部位だからです。

今回の患者様でも、右耳後部の翳風付近と肩上部の双方に緊張が確認されました。

一方で、施術では緊張している場所に直接多くの鍼をするのではなく、身体全体の状態を確認しながら、離れた部位にあるツボを使用しました。

具体的には、骨盤・手背・下腿を中心に施術を行いました。

● 施術後の経過

【第1回目】

初回は、骨盤、手の甲、下腿にあるツボへ鍼施術を行いました。

今回の患者様は、発症直後に来院されたわけではありません。

最初に耳鳴りや耳閉感、音が二重に聞こえる症状が出てからは、すでに約2ヶ月が経過していました。

さらに医療機関でステロイド治療を受けても、残っていた聴力低下や耳閉感に大きな変化を感じられていませんでした。

そのため、初回から耳の症状だけを追うのではなく、翳風付近や肩上部の緊張状態も確認しながら全身を調整しました。

施術後はそのまま帰宅していただき、その後の聞こえ方と耳閉感の変化を確認してもらうこととしました。

【第2回目】

2回目の来院時に状態を確認すると、患者様から右耳の聴力が回復したとの報告がありました。

さらに、来院時に常に感じていた右耳の耳閉感も消失していました。

初回来院時の症状スコアは「10」でしたが、改善後は「0」となりました。

耳の症状について良好な状態が確認できたため、突発性難聴に対する施術としてはいったん終了としました。

その後も別の身体の悩みに対する鍼施術は継続しましたが、その間も右耳の状態を確認したところ、聴力の回復と耳閉感がない状態は維持されていました。

特に効果のあったツボ(施術部位)

膀胱兪

骨盤周囲のバランスを調整する目的で使用しました。

築賓

ふくらはぎから首・肩の緊張を調整する目的で使用しました。

飛揚

ふくらはぎから首・肩の緊張を整える目的で使用しました。

精霊

手背から肩頂部の緊張を調整する目的で使用しました。

臀蓋

骨盤・臀部周囲から肩頂部の緊張を調整する目的で使用しました。

 

※実際の施術では、その日の身体の状態を確認したうえで使用するツボを選択しています。

※以上のツボ以外にも合計10か所以下を施術

当院(鍼灸TAKA)の考察

今回の症例は、これまでご紹介してきた突発性難聴の症例とは、少し異なる経過をたどっています。

大きな特徴は、最初の耳症状から約2ヶ月が経過していたことです。

最初は右耳の耳鳴り・耳閉感・音が二重に聞こえる症状が現れました。

ところが、それらは約1週間でいったん消失しています。

その後しばらくして、今度は低音域が聞こえにくくなるという別の異変が現れ、医療機関で突発性難聴の疑いと診断されました。

さらにステロイド治療を受けたものの、来院時には右耳の聴力低下と耳閉感が残っていました。

つまり今回の症例は、

耳症状が出現 → 一度消失 → 約1ヶ月後に低音域の聴力低下 → ステロイド治療 → 症状が残存 → 鍼治療

という経過をたどっています。

これは、発症3日や6日などで当院へ来院された早期の突発性難聴症例とは異なる点です。

 

当院では基本的に、突発性難聴はできるだけ早期に耳鼻科を受診し、必要な治療を開始することが重要だと考えています。

また鍼治療についても、発症から時間が経過するほど改善が難しくなる傾向があるため、できるだけ早い段階で相談していただくことをおすすめしています

しかし、今回のように発症から時間が経過しているからといって、すべてのケースで変化が期待できないとは限りません。

今回の患者様では、最初の症状から約2ヶ月が経過し、さらにステロイド治療後も残っていた症状に対して施術を行い、2回目の来院時には聴力の回復と耳閉感の消失が確認されました。

もちろん、改善までの経過には個人差があり、発症からの期間だけで結果を判断することはできません。

それでも、早期治療の重要性を基本としながら、すでに時間が経過してしまった症例でも身体の状態を確認する意味があることを示す一例となりました。

発症から時間が経過し、ステロイド治療後も症状が残っている方へ

突発性難聴では、できるだけ早く耳鼻科を受診し、必要な治療を開始することが重要です。

当院でも、発症から時間が経過するほど改善が難しくなる傾向があるため、鍼治療についてもできるだけ早い段階で開始することをおすすめしています。

一方で実際には、

「ステロイド治療を受けたけれど聞こえづらさが残っている」

「聴力は少し戻ったけれど耳の詰まりが取れない」

「低い音だけ聞き取りにくい」

「治療を続けているうちに発症から時間が経ってしまった」

といった状態で当院へ相談される方もいます。

 

発症から時間が経過しているからといって、必ずしもその後の改善が期待できないとは限りません

今回の患者様も、最初に右耳の異変が現れてから約2ヶ月が経過しており、さらに医療機関でステロイド治療を受けても、右耳の聴力低下と耳閉感が残っていました。

初診時に身体を確認すると、右耳後部の翳風付近だけでなく肩上部にも強い緊張があり、患者様自身も肩こりを自覚されていました。

そこで当院では、耳だけに施術を集中させるのではなく、骨盤・手背・下腿などのツボを使いながら、首や肩を含めた身体全体の緊張を整えるように施術しました。

その結果、初回施術後、2回目の来院時には聴力の回復と耳閉感の消失が確認されました。

その後は別の身体の悩みに対する施術を継続しましたが、その間も耳の状態を確認し、聴力の回復と耳閉感がない状態が維持されていました。

もちろん、この経過だけから鍼治療が聴力回復の直接的な原因だったと断定することはできません。自然な回復や、それ以前に受けた治療の影響なども考慮する必要があります。

それでも今回の症例は、発症から約2ヶ月が経過し、ステロイド治療後にも症状が残っていた状態から良好な経過をたどった一例です。

「もう時間が経ってしまったから」と諦めるのではなく、まず耳鼻科で現在の聴力や耳の状態を確認したうえで、聴力低下や耳閉感、耳鳴りなどが残っている場合には、鍼治療を補完的な選択肢として検討することもできます。

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