発症12日の突発性難聴 6回で聴力低下・耳鳴りが改善

50代・男性
担当鍼灸師:渡辺 賢司/東尾 静香

50代男性の患者様が、右耳の聴力低下と「ゴーゴー・ザーザー」という持続的な耳鳴りを主訴に来院されました。

最初に身体の変化を感じたのは、来院から12日前のことでした。

はじめに声のかすれが現れ、その後、耳鳴りを感じるようになりました。さらに翌日になると、右耳の聞こえが明らかに悪くなっていることに気づいたそうです。

右耳では「ゴーゴー」「ザーザー」といった低い音の耳鳴りが常に続いており、時間帯によって良くなったり悪くなったりするような変動もありませんでした。

また、単純に音が聞こえにくいだけではなく、

  • 左右で聞こえ方が明らかに違う
  • 右耳で音を捉えにくい
  • ゴーゴー、ザーザーという耳鳴りが続く
  • 高い音が耳に響いて不快に感じる

といった症状もあり、日常生活の中でも右耳の違和感を強く意識する状態になっていました。

耳鼻科を受診したところ、突発性難聴の疑いと診断されました。

症状が出てから約12日が経過しても聴力低下や耳鳴りが残っていたため、少しでも改善の可能性を求めて当院へ来院されました。

通院頻度・回数

週2回 計6回

施術と経過

●初診時の所見

当院では、突発性難聴だからといって耳周辺だけに鍼をするのではなく、首・肩・顎・骨盤などを含めて全身の状態を確認し、その方にどのような身体的特徴があるのかを評価した上で施術方針を決めています。

今回の患者様で特に目立ったのが、耳の後ろにある翳風付近と顎周囲の強い緊張でした。

顎関節は耳のすぐ近くに位置しています。

そのため当院では、顎周囲の筋肉が強く緊張している場合、その緊張が耳周辺にも負担をかける一つの要因になる可能性があると考えています。

実際に触診してみると、顎周囲だけでなく翳風付近にも明確な硬さが確認できました。

今回の症例では、

「耳そのものだけを見るのではなく、耳の近くにある顎や首を含めて身体全体の緊張を改善する必要がある」

と判断しました。

そこで、耳周囲へ直接多くの鍼をするのではなく、骨盤・手・手首など離れた部位のツボを使用し、全身のバランスを整えながら顎や耳周囲の緊張を緩和する方針で施術を開始しました。

● 施術後の経過

【第1回目】

初回は、骨盤・手・手首のツボを中心に鍼施術を行いました。

施術直後の段階では、ご本人がはっきり分かるほどの聴力の変化はありませんでした。

しかし身体を再度確認すると、施術前に強く認められていた顎周囲と翳風付近の緊張が明らかに緩和していました。

聴力そのものにはまだ変化がみられませんでしたが、身体には反応が現れていたため、この施術方針を継続することにしました。

【第2~3回目】

初回と同様に、骨盤・手・手首を中心とした施術を継続しました。

施術を重ねるにつれて、少しずつ右耳の聞こえ方にも変化が現れ始めました。

初診時には左右差を強く感じていましたが、右耳から入ってくる音が徐々に聞き取りやすくなり、日常生活でも変化を実感するようになりました。

耳周囲や顎の緊張についても、初診時と比較して和らいできました。

【第4~5回】

さらに同様の施術を継続しました。

聴力は徐々に回復し、左右の聞こえ方の差も小さくなっていきました。

当初強く感じていた「ゴーゴー」「ザーザー」という耳鳴りや、高音が響いて不快に感じる症状についても、全体として気になりにくくなっていきました。

施術期間中に一度改善した症状が再び大きく悪化することもなく、安定して回復していきました。

【第6回】

計6回の施術を行った段階で、右耳の聴力は初診時と比較して大幅に改善しました。

日常生活で感じていた左右の聞こえ方の差も軽減し、耳鳴りなどの症状についても改善がみられました。

また、施術期間中に新たな耳の症状が出現することもなく、良好な状態を維持できたため、一連の施術を終了しました。

特に効果のあったツボ(施術部位)

膀胱兪

骨盤周囲のバランスを整え、顎関節・翳風の緊張を調整する目的で使用しました。

養老

手首周辺から首・肩周囲の緊張にアプローチする目的で使用しました。

精霊

手から上半身の筋緊張を調整し、顎や首周囲への負担を軽減する目的で使用しました。

三陰交

下腿から身体全体のバランスを整える目的で使用しました。

陰陵泉

下半身や腹部を含めた全身の緊張を調整する目的で使用しました。

 

※以上のツボ以外にも合計10か所以下を施術

当院(鍼灸TAKA)の考察

今回の症例で特徴的だったのは、発症から約12日が経過した状態で鍼治療を開始したことと、耳周囲だけでなく顎に強い緊張が認められたことです。

当院では、突発性難聴の症状を考える際、耳だけに原因を求めるのではなく、耳の周囲にある顎・首・肩などの筋肉の状態も重要視しています。

特に顎関節は耳のすぐ近くにあります。

食いしばりや歯ぎしりなどによって顎周囲の筋肉が緊張すると、首や側頭部にも緊張が広がりやすくなります。当院では、このような耳周辺の筋緊張が強い状態では、局所の血流などにも影響を及ぼし、耳の症状が改善しにくくなる可能性があると考えています。

今回も、初回の施術直後には聴力そのものに明確な変化はありませんでした。

一方で、顎と翳風付近の緊張には初回から変化が確認できました。

そのため、耳に直接的な変化が出ていないからといって施術方針を変更するのではなく、身体の反応を確認しながら同じ方針で継続しました。

その結果、施術を重ねるにつれて聴力にも変化が現れ、計6回で大幅な改善につながりました。

もう一つ重要なのが治療を開始した時期です。

これまでご紹介している発症3日で来院された症例と比べれば、本症例は発症から12日が経過していました。

それでも比較的早い段階で施術を開始できたことは、良好な経過につながった一つの要因である可能性があります。

当院では突発性難聴について、「もう少し様子を見てから鍼治療を考える」のではなく、耳鼻科で必要な検査・治療を受けながら、できるだけ早い段階でご相談いただくことが大切だと考えています。

もちろん、発症時の聴力低下の程度や年齢、基礎疾患などによって経過には個人差があり、鍼治療による改善を保証することはできません。

しかし今回のように、耳周囲だけではなく顎や全身の状態を確認し、身体の緊張を整えていくことが回復を後押しする一つの選択肢になると考えています。

突発性難聴でお悩みの方へ

「突然片耳が聞こえにくくなった」

「ゴーゴー、ザーザーという耳鳴りが始まった」

「耳が詰まっている感じが取れない」

「高い音だけが響いて聞こえる」

このような症状が突然現れた場合には、まず耳鼻科を受診し、聴力検査など必要な検査を受けることが大切です。

そのうえで、治療を受けても聴力低下や耳鳴りが残っている場合には、鍼治療も選択肢の一つとなります。

今回の患者様は発症から12日で鍼治療を開始し、計6回の施術で聴力低下や耳鳴りが大幅に改善しました。

突発性難聴は、当院でも特に治療開始までの期間を重要視している症状です。

耳鼻科での治療が終わるまで待つのではなく、症状が残っている場合には早い段階でご相談ください。

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