発症10日の突発性難聴 8回で左耳の耳鳴りがほぼ消失

60代・女性
担当鍼灸師:渡辺 賢司/東尾 静香

60代女性の患者様が、左耳に続く「ブーン」という耳鳴りと聴力低下を主訴に来院されました。

最初に異変を感じたのは、来院する約10日前のことでした。

特にきっかけとなる出来事はなく、突然左耳から「ブーン」という音が聞こえるようになりました。一時的な耳鳴りではなく、時間帯にかかわらず持続しており、日常生活の中でも常に耳鳴りを意識してしまう状態でした。

「静かな場所にいてもブーンという音が聞こえる」

という状態が続いたため耳鼻科を受診し、聴力検査を受けたところ、左耳の聴力が低下していることが確認されました。

医師からは「突発性難聴の疑い」と診断されました。

近所の耳鼻科ではステロイドによる治療ができないとのことで、総合病院を紹介されましたが、ご本人が鍼治療も試してみたいと希望され、当院へ来院されました。

耳鳴りによって日常生活ができないほどではありませんでしたが、常に左耳で音が鳴っていることに強いわずらわしさを感じていました。

また、耳の症状以外にも慢性的な肩こりを自覚されていました。

通院頻度・回数

週2回 計8回

施術と経過

●初診時の所見

今回の患者様の場合、初診時に特に目立ったのが首から肩にかけての強い筋緊張でした。

ご本人にも肩こりの自覚がありましたが、実際に触診すると首周囲にも強い張りが認められ、首を動かした際の可動域も十分ではありませんでした。

当院では、突発性難聴や耳鳴りの患者様を施術する際、耳周囲だけではなく、首や肩の状態を重要視しています。

耳周辺には首から頭部へ向かう血管や神経が存在するため、首肩周囲に強い筋緊張が続いている状態は、耳周囲の環境を考えるうえでも無視できないと当院では考えています。

今回の症例では、

「左耳だけを局所的に施術するのではなく、まず強く緊張している首肩を含めた身体全体の状態を整える」

ことを施術方針としました。

そこで、耳へ直接多くの鍼をするのではなく、手や足の甲にあるツボを使用し、首肩周囲の緊張を緩和することを目的に施術を開始しました。

● 施術後の経過

【第1回目】

初回は、手と足の甲にあるツボを中心に鍼施術を行いました。

施術前後で身体を確認すると、強く緊張していた首周囲が緩み、首を左右へ動かした際の可動域にも改善がみられました。

一方、この段階では患者様自身が感じる「ブーン」という耳鳴りには明確な変化はありませんでした。

聴力についても、施術直後に聞こえ方が変化したという自覚はありませんでした。

ただし、首肩の状態には明確な変化が確認できたため、身体の反応をみながら同じ施術方針を継続することにしました。

【第2~3回】

2回目以降も、手や足の甲のツボを使いながら首肩の緊張を整える施術を継続しました。

初回のように施術直後から耳鳴りが大きく変化することはありませんでしたが、施術を重ねていくうちに、

「以前より耳鳴りを意識しない時間が出てきた」

という変化がみられるようになりました。

常に同じように聞こえていた「ブーン」という音が、徐々に気になりにくくなってきました。

【第4~6回】

さらに同様の施術を継続しました。

首や肩の緊張も初診時と比較すると和らぎ、耳鳴りについても徐々に変化がみられました。

特に、普段の生活をしている中で耳鳴りを忘れている時間が増え、初診時のように常に左耳を意識することが少なくなっていきました。

症状が一度軽くなってから再び強くなるような大きな再燃もなく、安定して改善していきました。

【第7~8回】

施術を継続し、8回目を迎えた頃には、

「耳鳴りはほとんど気にならなくなった」

という状態まで改善しました。

来院時には常に聞こえていた「ブーン」という音がほぼなくなり、日常生活でも耳鳴りを意識せず過ごせるようになりました。

なお、施術終了時に改めて医療機関で聴力検査を受けた結果については確認できていないため、客観的な聴力の回復については不明です。

一方で、ご本人が最もわずらわしさを感じていた持続的な耳鳴りについては、ほぼ消失したことを実感されていました。

施術期間中に症状の再燃や新たな耳症状も認められませんでした。

特に効果のあったツボ(施術部位)

今回の症例では、耳の症状だからといって耳周囲だけに施術を集中させるのではなく、手足のツボを利用して離れた場所から首肩の状態を整えたことも施術上の特徴です。

威颯

手のツボから首周囲の緊張にアプローチし、耳周辺への負担を軽減する目的で使用しました。

開魄

足部から身体全体のバランスを調整し、首肩周囲の筋緊張を緩和する目的で使用しました。

 

※以上のツボ以外にも合計10か所以下を施術

当院(鍼灸TAKA)の考察

今回の症例には、これまでの突発性難聴の症例とは異なるいくつかの特徴があります。

一つ目は、発症から10日という比較的早い段階で鍼治療を開始できたことです。

当院では、突発性難聴については治療開始までの期間を非常に重要視しています。

今回も発症から長期間経過する前に施術を開始できたことは、その後の経過を考えるうえで重要なポイントだったと考えています。

 

二つ目は、主な悩みが「ブーン」という持続的な左耳の耳鳴りだったことです。

突発性難聴では聴力低下だけでなく、耳鳴り、耳のつまり感、自分の声が響く、高音が響くなど、患者様によって症状の現れ方が大きく異なります。

今回の患者様の場合、聴力検査では左耳の聴力低下が確認されていましたが、ご本人が日常生活で最も負担に感じていたのは、絶えず聞こえてくる耳鳴りでした。

そのため、この症例では「聴力の数値」だけではなく、患者様が日常生活で何に困っているのかを施術経過の重要な指標としました。

 

三つ目は、初診時に認められた強い首肩の緊張です。

当院では、耳鳴りや突発性難聴の患者様に首肩こりが併存している場合、耳と首肩を別々の問題として考えるのではなく、身体全体の状態として評価しています。

今回も初回の鍼治療直後には耳鳴りそのものに変化はありませんでしたが、首の緊張と可動域には明らかな変化が確認できました。

そこで「1回で耳鳴りが変わらなかったから効果がない」と判断せず、身体の変化を確認しながら同じ方針で施術を継続しました。

 

その結果、施術回数を重ねるにつれて徐々に耳鳴りを意識しない時間が増え、8回の施術後には持続していた耳鳴りがほぼなくなりました。

このように突発性難聴に対する鍼治療では、必ずしも初回から耳の症状そのものが変化するとは限りません。

身体の緊張が先に変化し、その後、施術を重ねることで耳の症状にも変化が現れるケースがあります。

一方、本症例では施術終了後の聴力検査結果を確認できていないため、「聴力が正常まで回復した」と判断することはできません。

確認できた結果と、確認できていない結果を明確に分けて評価することも、症例を蓄積していくうえでは大切だと考えています。

突発性難聴でお悩みの方へ

突然片耳の聞こえが悪くなったり、それまでなかった耳鳴りが続くようになった場合は、まず耳鼻科を受診して聴力検査などの必要な検査を受けることが重要です。

そのうえで、

「ブーンという耳鳴りが一日中続いている」

「耳鼻科で突発性難聴と言われた」

「聴力低下と一緒に耳鳴りが残っている」

「首や肩も常に凝っている」

といった症状がある場合には、鍼治療も選択肢の一つになります。

 

今回の患者様は、発症10日後から鍼治療を開始し、週2回、計8回の施術で左耳の持続的な耳鳴りがほぼ気にならない状態まで改善しました。

突発性難聴は発症からの時間が重要です。

耳鼻科で必要な検査や治療を受けながら、鍼治療を検討される場合にも、長期間様子を見るのではなく早めにご相談いただくことをおすすめしています。

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