発症2週間以上の突発性難聴 2回で右耳の閉塞感が消失

30代・男性
担当鍼灸師:渡辺 賢司/東尾 静香

30代男性の患者様が、右耳の聴力低下、耳の閉塞感、耳鳴りを主訴に来院されました。

症状が現れたのは、当院へ来院する2週間以上前のことです。

最初は右耳が詰まったような感覚があり、その後、明らかに右耳の聞こえが悪くなっていることに気づきました。

しかし、症状が出た直後には医療機関を受診せず、しばらく様子をみていました。

症状が改善しないため、発症から約10日後に病院を受診。聴力検査などを受けた結果、医師から「突発性難聴の疑い」と診断され、ステロイドによる治療が開始されました。

治療前の右耳の聞こえ方について、ご本人の感覚では通常を100%とすると、20%程度しか聞こえていない状態でした。

ステロイド治療後には50%程度まで聞こえる感覚が戻り、耳鳴りも発症直後より軽減しました。

しかし、

  • 右耳の聞こえにくさ
  • 耳が塞がっているような閉塞感
  • 耳鳴り

は残っていました。

これらの症状は常に存在し、特に右耳の聴力低下によって日常生活での聞き取りに大きな不便を感じていました。

ステロイド治療によってある程度回復したものの、「まだ半分くらいしか聞こえていない」という状態から、残った症状の改善を希望して当院へ来院されました。

なお、既往歴として1型糖尿病がありました。

通院頻度・回数

週2回 計2回

施術と経過

●初診時の所見

初診時には、耳周囲だけでなく、首・肩・顎・骨盤などを含めて身体全体の状態を確認しました。

特に特徴的だったのが、

  • 右耳の後ろにある翳風付近の詰まったような緊張
  • 顎周囲の強い筋緊張
  • 肩周囲の張り

でした。

今回、特に注目したのが顎と耳周囲の関係です。

顎関節は耳のすぐ前に位置しており、咀嚼に関わる筋肉は首や側頭部とも密接に関係しています。

そのため当院では、耳の症状がある患者様に顎周囲の強い緊張がみられる場合、耳とはまったく別の問題として扱うのではなく、耳周囲に負担をかけている要因の一つとして考えています。

今回の患者様でも、耳後部の翳風付近だけではなく、顎から肩にかけて強い緊張が認められました。

そこで、耳だけに直接施術するのではなく、骨盤・手・脚のツボを利用して身体全体のバランスを整え、その結果として顎や肩、耳周囲の緊張を軽減することを目的に施術を開始しました。

● 施術後の経過

【第1回目】

初回は、骨盤・手・脚のツボを中心に鍼施術を行いました。

特に初診時に確認された顎や肩の筋緊張、翳風付近の詰まったような状態がどのように変化するかを確認しながら施術を進めました。

この症例では、耳周囲へ直接多くの鍼をするのではなく、身体から離れたツボを使って全身の状態を調整することを重視しました。

施術後には身体の緊張に変化がみられたため、同様の施術方針で経過を確認することとしました。

【第2回】

2回目の来院時には、大きな変化が確認されました。

初診時に強く感じていた右耳の閉塞感が消失していました。

さらに、ご本人が感じていた右耳の聞こえ方についても回復がみられ、日常生活で感じていた聞き取りづらさが改善していました。

ステロイド治療後にも残っていた耳の詰まり感がなくなり、聴力についても良好な経過が確認できたことから、計2回で施術を終了しました。

特に効果のあったツボ(施術部位)

膀胱兪

骨盤周囲のバランスを調整し、顎関節を整える目的で使用しました。

養老

手首から顎関節を整える目的で使用しました。

精霊

上半身、特に顎や肩周囲の緊張を調整する目的で使用しました。

三陰交

下腿から身体全体のバランスを整える目的で使用しました。

陰陵泉

下半身や腹部を含めた全身の緊張を調整する目的で使用しました。

 

※以上のツボ以外にも合計10か所以下を施術

当院(鍼灸TAKA)の考察

今回の症例で特徴的なのは、これまでご紹介してきた発症早期から鍼治療を開始した症例とは異なり、症状が出てから鍼治療を開始するまでに2週間以上が経過していたにもかかわらず、わずか2回の施術で大幅な改善がみられたことです。

当院では、突発性難聴については基本的に、発症から治療開始までの期間が短いほど改善しやすい傾向があると考えています。

そのため、本症例のように発症から2週間以上が経過しているケースでは、ある程度の施術回数が必要になる可能性も想定していました。

しかし実際には、2回目の来院時には右耳の閉塞感が消失し、聴力についても回復が確認されました。

このように比較的早く改善した背景の一つとして、患者様が30代とまだ比較的若かったことも関係している可能性があります。

突発性難聴の回復には、発症から治療開始までの期間だけではなく、年齢、聴力低下の程度、めまいの有無、基礎疾患など、さまざまな要因が関係すると考えられます。

今回の患者様には1型糖尿病という既往があった一方で、30代と比較的若く、身体の回復力が保たれていたことが、発症から時間が経過していたにもかかわらず良好な経過につながった可能性があります。

また、今回の症例ではステロイド治療によって、ご本人の感覚では聴力が20%程度から50%程度まで回復していました。

つまり、ステロイド治療によって一定の改善は得られていたものの、そこから先の聴力低下・耳閉感・耳鳴りが残っていた状態で当院の鍼治療を開始したことになります。

身体を確認すると、耳そのものだけではなく、翳風付近・顎・肩に強い緊張が存在していました。

そこで、骨盤・手・脚といった耳から離れた部位を中心に施術し、顎や肩を含めた全身の緊張を整えていきました。

その結果、2回目の来院時には右耳の閉塞感が消失し、聴力についても回復が確認されました。

ただし、この経過から「鍼治療だけによって突発性難聴が改善した」と判断することはできません。

すでにステロイド治療を受けており、その治療効果が継続していた可能性もあります。

そのため本症例は、ステロイド治療によって一定の回復が得られた後に残っていた症状に対して鍼治療を併用し、その後さらに良好な経過を示した症例として捉えるのが適切だと考えています。

 

そして、この症例から特にお伝えしたいのは、

「発症からの期間だけで改善の可能性を判断することはできない」

ということです。

もちろん、突発性難聴はできるだけ早く治療を開始することが重要です。

しかし今回のように、発症から2週間以上が経過していても、年齢が比較的若いことや、聴力低下の程度、身体の状態などによっては、少ない施術回数で改善するケースもあります。

今回の患者様が30代だったことは、この症例を考えるうえで重要な特徴の一つだったと考えています。

一方で、今回結果的に2回で改善したからといって、突発性難聴を発症してから2週間程度様子をみてもよいという意味ではありません

急に片耳が詰まった、聞こえが悪くなった、耳鳴りと同時に聴力が低下したといった場合には、できるだけ早く耳鼻科を受診することが大切です。

ステロイド治療後も症状が残っている方へ

突発性難聴の治療を受けた後、

「聴力は少し戻ったけれど、以前のようには聞こえない」

「耳の詰まり感だけが取れない」

「耳鳴りが残っている」

といった状態でお悩みの方もいらっしゃいます。

今回の患者様も、ステロイド治療によって一定の回復はみられたものの、右耳の閉塞感・聴力低下・耳鳴りが残っていました。

当院では、このような場合に耳だけを見るのではなく、顎・首・肩・骨盤などを含めて身体全体を確認し、その方に残っている筋緊張や身体のバランスに合わせて施術を行います。

また、「発症から時間が経ってしまったから、もう鍼治療を受けても意味がないのでは」と考える方もいらっしゃいます。

確かに、当院では突発性難聴は早期に治療を開始することが重要だと考えています。

しかし、本症例のように発症から2週間以上経過していても、年齢や症状、身体の状態などによっては改善がみられる場合があります。

まず耳鼻科で必要な検査・治療を受け、そのうえで聴力低下・耳鳴り・耳閉感などが残っている場合には、長期間様子を見るのではなく、鍼治療を併用することも選択肢の一つとしてご検討ください。

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