発症1カ月後の顔面神経麻痺|目が閉じられない・口元が上がらない症状が11回の鍼施術で改善した症例

40代男性
担当鍼灸師:渡辺 賢司、東尾 静香

来院する約1カ月前から、突然、左側の顔が思うように動かなくなりました。医療機関を受診したところ、顔面神経麻痺と診断されました。

特に困っていたのが、左目と口元の動きです。

左目をしっかり閉じることができず、目の乾燥が続いていました。洗髪すると、目を閉じているつもりでも完全には閉じきらないためシャンプーが目に入ってしまいます。

また、車を運転している時にも左目が乾燥しやすく、日常生活のさまざまな場面で不便を感じていました。

口元にも麻痺があり、食事や飲み物を口にすると左側からこぼれてしまうことがありました。

笑顔を作ろうとしても左側の口元が十分に上がらず、顔の左右差も気になっていました。

顔面神経麻痺は顔の見た目だけの問題と思われがちですが、実際には、

「目を閉じる」「食べる」「飲む」「笑う」

といった日常生活に欠かせない動作にも影響します。

この患者さんも発症から約1カ月が経過していましたが、目や口元の動かしにくさが残っており、日常生活への支障が続いていたため、改善を希望して鍼灸TAKAへ来院されました。

通院頻度・回数

週1~2回 計11回

施術と経過

●初診時の所見

初診では、麻痺している顔だけを見るのではなく、耳の周囲、首、肩、鎖骨、肩甲骨などを含めて身体全体を触診しました。

すると特徴的だったのが、左耳の後ろにある翳風付近から首にかけての緊張です。

さらに、鎖骨の下や肩甲骨周囲にも強い緊張が確認されました。

これは今回の施術方針を決めるうえで非常に重要な所見でした。

当院では、病院での治療後も目や口元の動かしにくさが残る顔面神経麻痺について、顔だけではなく首こり、特に胸鎖乳突筋周辺の緊張に着目しています。

そこで、

耳の後ろ・首・鎖骨・肩甲骨周囲の緊張

↓

顔面神経周囲に負担がかかりやすい身体環境

↓

目や口元の動きが回復しにくい状態

になっている可能性があると当院では考えました。

そのため、顔そのものを刺激するのではなく、まずはこの首周辺の緊張を変化させることを施術のポイントとしました。

● 施術後の経過

【第1回】

初回は、麻痺している左顔面には鍼をせず、骨盤、上肢、下肢、腰にあるツボを使用しました。

顔面神経麻痺なのに、なぜ顔や首ではなく手足や骨盤に鍼をするのか、不思議に感じるかもしれません。

当院では、硬くなっている首へ直接たくさん鍼をするのではなく、**「なぜこの患者さんの首がこれほど緊張しているのか」**を身体全体から探します。

仕事内容や姿勢、身体の使い方などによって、首に負担をかけている場所は患者さんごとに異なるためです。

今回も骨盤、腰、上肢、下肢にあるツボを使い、施術前後で耳の後ろや首、鎖骨下、肩甲骨周囲の緊張がどのように変化するかを確認しながら施術しました。

【第2回】

2回目の来院時には、患者さんから、

「口元が少し柔らかくなった感じがする」

という報告がありました。

まだ左側の顔の動かしにくさは残っていましたが、発症後から硬く動かしにくかった口元に本人が変化を感じ始めていました。

身体の反応が確認できたため、初回と同じ考え方で施術を継続しました。

【第3回以降】

その後も、顔そのものに多くの刺激を加えるのではなく、身体のツボを使いながら首や耳周囲の緊張を整えていきました。

施術を重ねるにつれて、まず口元の動きに変化が現れ、その後、左目の動きも徐々に改善していきました。

当初は目を閉じようとしても完全に閉じることが難しく、乾燥や洗髪時の不便がありましたが、少しずつ目を閉じやすくなりました。

同時に、

笑った時に口元が上がりやすくなる

飲食物が口からこぼれにくくなる

目を閉じやすくなる

目の乾燥が気になりにくくなる

といった変化がみられるようになりました。

毎回、単に顔の左右差だけを見るのではなく、日常生活で実際に困っていた動作がどこまでできるようになったかも確認しながら施術を進めました。

【第11回】

11回の施術を行った時点では、目と口元の動きが大幅に改善しました。

発症当初に困っていた、目が閉じられない、目が乾燥する、飲食物が口からこぼれる、笑った時に左側の口元が上がらないといった日常生活上の問題も大きく軽減しました。

施術期間中に大きな症状の再燃や、新しい症状の出現もみられませんでした。

日常生活で顔面神経麻痺による不便を感じる場面が大幅に減ったため、集中的な施術はいったん終了としました。

使用したツボ(施術部位)

膀胱兪

骨盤周囲のバランスを調整し、翳風付近(顎関節)を整える目的で使用しました。

合谷

首周囲(特に胸鎖乳突筋)の緊張を調整する目的で使用しました。

玉竧

下腿外側の筋緊張のアンバランスを整え、首肩への負担軽減を目的として使用しました。

腰海

腰部(特に腰方形筋)の緊張を緩和して首肩への負担軽減を目的として使用しました。

手三里

首周囲(特に胸鎖乳突筋)及び鎖骨下の緊張を調整する目的で使用しました。

 

※以上のツボ以外にも合計10か所以下を施術

まとめ:当院(鍼灸TAKA)の症状分析

今回の症例で最も重要だったのは、顔面神経麻痺だからといって、麻痺している顔だけを原因と考えなかったことです。

初診時には、左耳の後ろにある翳風付近、首、鎖骨下、肩甲骨周囲に明らかな緊張が確認されました。

当院では、病院で治療を受けても顔面神経麻痺の症状が残る場合、首こり、特に胸鎖乳突筋周辺の強い緊張が顔面神経周辺に負担をかけている可能性に着目しています。

 

ただし、ここでもう一つ重要なのが、硬くなっている首へ直接鍼をすればよいわけではないということです。

なぜ首が硬くなっているのかは患者さんによって異なります。

姿勢や仕事内容、身体の使い方、骨盤や背中の状態など、離れた場所の問題によって首へ負担が集中していることもあります。

そのため当院では、

首が硬い

↓

首だけを施術する

のではなく、

首が硬い

↓

なぜ首が硬くなっているのか身体全体を確認する

↓

その原因と考えられる場所にツボを選ぶ

↓

施術直後に首の緊張が変化したか確認する

↓

目や口元の動きも継続的に確認する

という流れで施術を行います。

 

今回、骨盤、腰、上肢、下肢など離れた場所のツボを使用したのも、この考え方によるものです。

そして2回目には早くも「口元が少し柔らかくなった」という変化が現れ、その後は口元だけでなく目の動きも徐々に改善しました。

最終的に11回の施術を通して、目が閉じにくい、目が乾燥する、飲食物がこぼれる、笑った時に口元が上がらないといった日常生活上の問題も大幅に軽減しました。

 

今回の症例は、顔面神経麻痺という診断名だけを見るのではなく、実際に身体を触診して確認できた「耳の後ろから首・鎖骨・肩甲骨周囲の緊張」を一つの重要な手がかりとして施術した症例でした。

 

鍼灸TAKAでは、顔面神経麻痺だから顔に鍼をするという一律の施術ではなく、首の緊張と、その首の緊張を作っている身体の特徴まで確認します。

「麻痺している顔」ではなく、「なぜ顔面神経に負担がかかりやすい身体になっているのか」まで探すこと。

そこから一人ひとりに合わせて施術を組み立てることが、当院の顔面神経麻痺に対するアプローチの特徴です。

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