会議室などの閉鎖空間で呼吸が浅くなり「逃げ出したい」不安が出ていた50代男性|5回の鍼施術で改善した症例

担当鍼灸師:渡辺 賢司

会議室や電車などの閉鎖された空間に入ると、呼吸が浅くなり、その場から飛び出したくなるような強い不安感を主訴に来院されました。

もともと数年前から、狭い場所に入ると気分が悪くなったり、不安を感じたりすることがありました。ただ、以前は症状が出る場面も限られており、日常生活に大きな支障が出るほどではありませんでした。

状態が大きく変わったのは2025年7月です。

電車に乗っていた際に突然、強いパニック様の症状が現れました。

気分が悪くなると同時に呼吸が浅くなり、「ここから出たい」「この場所にいられない」という強い感覚に襲われました。

それ以降、電車だけではなく、仕事中の会議室などでも同じような症状が現れるようになりました。

特に、会議室のように「自分のタイミングですぐ外へ出にくい場所」に入ると、次第に呼吸が浅くなり、気分が悪くなってきます。そして症状が強くなると、その場から飛び出したくなるような不安を感じていました。

さらに、一度このような経験をすると、実際に会議が始まる前から、

「また苦しくなったらどうしよう」  

「途中で出たくなったらどうしよう」

と考えるようになり、会議室へ入ること自体にも不安を感じるようになっていました。

仕事上、会議への参加を避け続けることはできません。そのため、症状そのものだけでなく、「仕事中にまた症状が出るのではないか」という予期不安**も大きな負担になっていました。

心療内科を受診し、内服薬による治療も受けていましたが、十分な改善を実感できなかったため、別の方向から身体を整えたいと考え当院へ来院されました。

通院頻度・回数

週1~2回 計5回

施術と経過

●初診時の所見

今回の患者様で特に重要だったのが、「閉鎖空間に入ると呼吸が浅くなる」という訴えです。

そこで当院では、不安感だけを確認するのではなく、まず実際に呼吸をしづらくする身体的な要因がないかを確認しました。

身体を触診すると、特に目立っていたのが腹部、中でもみぞおち付近の強い緊張でした。

みぞおち周囲は、呼吸に重要な横隔膜とも関係する場所です。

呼吸をするときには肺だけが動いているわけではありません。息を吸うと横隔膜が下がり、肋骨が広がることで胸郭が拡張します。

ところが、不安や緊張によって身体に力が入り続け、みぞおちや腹部が硬くなっていると、本人には「息が深く入らない」「呼吸が浅い」と感じられることがあります。

今回の患者様の場合、

閉鎖空間に入る

↓

「また苦しくなるかもしれない」と警戒する

↓

身体に力が入り、みぞおち周囲が緊張する

↓

呼吸が浅く感じる

↓

「息ができなくなるのではないか」とさらに不安になる

↓

その場から逃げ出したくなる

という悪循環が起きている可能性を考えました。

そのため、「パニックだから精神的にリラックスしましょう」という考え方だけではなく、まず深く呼吸しやすい身体の状態をつくることを今回の施術の重要な目的としました。

● 施術内容と経過

【初回】

初回は、強く緊張していたみぞおち・腹部を整え、呼吸をしやすい状態へ導くことを目的として施術を行いました。

症状が出ている胸やみぞおちへ直接多くの鍼をするのではなく、離れた場所にあるツボを使い、施術前後で腹部の緊張や呼吸の変化を確認しました。

施術後にはみぞおち周囲の緊張が緩み、患者様自身も「呼吸が浅い感じが楽になった」と変化を感じられました。

そこで、まず身体の緊張を整えて呼吸をしやすくするという方針を継続することにしました。

【2回目以降】

その後の施術では、腹部だけでなく背中の張りも目立つようになりました。

また、実際に会議室で症状が出ていないときでも、「また起きるのではないか」という予期不安が残っていました。

そこで、腹部と背部の両方を確認しながら、その時々の身体の緊張に合わせて施術を継続しました。

身体が楽になってくるにつれて、会議室に入ったときの呼吸の浅さも徐々に感じにくくなっていきました。

そして、「会議室に入る=また苦しくなる」という感覚も少しずつ薄れていきました。

【3~5回目】

施術を重ねるにつれて、仕事中に会議室へ入っても以前のような強い症状がほとんど現れなくなりました。

呼吸が浅くなって気分が悪くなったり、「今すぐここから出たい」と感じたりすることが減ったことで、会議そのものにも以前より落ち着いて参加できるようになりました。

それに伴い、会議が始まる前から感じていた予期不安も徐々に軽減しました。

計5回の施術で日常生活や仕事への大きな支障がなくなったため、一連の施術を終了しました。

使用したツボ(施術部位)

胞肓

臀部にあるツボです。特に横隔膜に作用を期待し、みぞおちや腹部に力が入り続けている状態を緩める目的で使用しました。

曲泉

膝の内側にあるツボです。腹部(特にみぞおち)の緊張を緩和し、呼吸しやすい体にする目的で使用しました。

小腰

足にあるツボ、首肩全体を緩めて、身体全体がリラックスしやすい状態をつくる目的で使用しました。

まとめ:症状の分析

今回の症例で特徴的だったのは、単純に「不安を感じる」ということではなく、会議室や電車などの閉鎖空間に入ると呼吸が浅くなり、その場から逃げ出したくなるという身体症状を伴っていたことです。

さらに、一度症状を経験したことで、実際にはまだ何も起きていない段階から「また苦しくなるのではないか」という予期不安が生まれていました。

 

パニック症状では、不安や恐怖といった精神面だけが注目されがちです。

しかし当院では、「そのとき身体では何が起きているのか」という点も重要だと考えています。

今回、身体を確認した際に特に目立っていたのが、みぞおち周囲の強い緊張でした。

 

人は不安や緊張を感じると、無意識に身体へ力が入ります。

肩をすくめたり、背中を硬くしたり、お腹に力を入れたりすることは珍しくありません。

しかし、みぞおちや腹部が硬くなった状態が続けば、横隔膜や肋骨を大きく使った呼吸もしづらくなります。

そうすると実際には呼吸ができていても、本人には「十分に息が入ってこない」「呼吸が浅い」という感覚が生まれやすくなります。

 

特に今回のような会議室では、「少し苦しくなったから外へ出よう」と自由に行動できないことがあります。

すると、

「ここから出られない」

→ 身体(特に呼吸に関係する筋肉)が緊張する

→ 呼吸が浅くなる

→ 呼吸の変化を意識する

→ 「また発作が起きる」と不安になる

→ さらに身体が緊張する

という循環が生まれやすくなります。

 

今回の施術では、この悪循環の中でも、まず「みぞおち・腹部の緊張と呼吸の浅さ」という身体側の問題に着目しました。

初回施術後から呼吸の浅い感覚に変化がみられ、その後、会議室でも症状が起こらない経験を重ねるにつれて、予期不安も徐々に軽減していきました。

ここが今回の症例の重要なポイントです。

不安を無理になくそうとするのではなく、まず「会議室に入っても普通に呼吸できた」という身体の経験を積み重ねる。

身体症状が出なくなれば、「また苦しくなるかもしれない」という警戒も少しずつ必要なくなっていきます。

今回の患者様では、腹部だけでなく途中から背中の張りも確認されたため、その時々の身体の変化に合わせて施術部位を調整しました。その結果、5回の施術で会議室でも症状がほとんど出なくなり、予期不安についても大幅に軽減しました。

 

鍼灸TAKAでは、パニック障害や不安症状を「気持ちの問題」だけとして捉えるのではなく、呼吸の浅さ、みぞおちの張り、首肩や背中の緊張、姿勢など、身体に現れている特徴を確認することを大切にしています。

特に、「会議室や電車など逃げにくい場所で呼吸が浅くなる」「その場から出たくなる」「また症状が起きるのではないかと不安になる」という方では、呼吸と身体の緊張状態を確認することが、改善への一つの糸口になると考えています。

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