電車内で動悸・息苦しさが起こるパニック障害の疑い 7回の鍼施術で県外への電車移動もできるようになった20代男性の症例

担当鍼灸師:渡辺 賢司

2025年6月、電車に乗っていた際に突然、動悸と息苦しさが現れました。同時に身体が強くこわばり、普段とは違う緊張感に襲われるようになりました。

 

それまで何気なく利用していた電車でしたが、この出来事をきっかけに、電車に乗ること自体に強い不安を感じるようになりました。

医療機関を受診したところ、パニック障害の疑いと診断されました。

 

パニック障害では、突然の動悸や息苦しさなどの発作だけでなく、「また同じ症状が起こるのではないか」という予期不安が生じることがあります。

今回の患者さんも、電車に乗ることへの不安が強くなっていました。特に電車は、一度乗車すると自分の意思ですぐに降りられない場面があります。

 

そのため、実際に発作が起きていないときでも、電車に乗ることを考えるだけで不安が強くなりやすい状況でした。

また、日常生活では寝つきの悪さも現れていました。身体の症状として特徴的だったのが、首から肩甲骨の間にかけての張り感です。

特に左側の肩甲骨の内側に強い張りを感じており、普段から上半身に力が入りやすい状態でした。

 

電車内での動悸や息苦しさだけでなく、首や背中の緊張、不眠など複数の不調が重なっていたため、身体の状態からも改善できる方法を探し、当院へ来院されました。

通院頻度・回数

週1~2回 計7回

施術と経過

●初診時の所見

初診時に特に目立っていたのは、左側の肩甲骨の間と首の強い張り、そしてみぞおち周辺の硬さでした。

肩甲骨の間には呼吸に関係する筋肉があり、この周囲の緊張が強いと、胸郭の動きが制限され、呼吸を浅く感じる一因になることがあります。

さらに、みぞおち付近は横隔膜に近い場所です。

横隔膜は呼吸を行う際に重要な役割を担っており、腹部の緊張が強い状態では、呼吸に伴う身体の動きにも影響する可能性があります。

今回の患者さんでは、背中とみぞおちの両方に緊張が確認されたことから、当院では呼吸のしづらさと身体の緊張状態との関係に着目しました。

● 施術内容と経過

【初回】

初回施術後には、患者さん自身が呼吸のしやすさを実感されました。

さらに、その日の夜は、それまで気になっていた寝つきの悪さが軽減し、眠ることができました。

初回から呼吸と睡眠に変化がみられたため、身体の緊張を整える方針で施術を継続することにしました。

【2回目以降】

2回目以降も、肩甲骨の間の緊張を緩めることを中心に施術を進めました。

今回の症例では、電車に乗ることへの不安だけに着目するのではなく、不安を感じたときに身体がこわばり、呼吸がしづらくなる状態を改善することを重視しました。

施術を重ねる中で、動悸や息苦しさなどの症状は徐々に軽減していきました。

それに伴い、電車に乗ることへの不安にも変化が現れました。

まず、短い距離であれば電車に乗れるようになりました。

それまで不安を感じていた電車移動が少しずつ可能になったことは、患者さんにとって大きな変化でした。

【施術後半】

その後も身体の緊張状態を確認しながら施術を継続しました。

短距離の電車移動ができるようになった後は、さらに移動できる範囲が広がり、最終的には県外への電車移動もできるようになりました。

当初は電車に乗ること自体に強い不安を感じていましたが、日常生活での行動範囲を取り戻すことができました。

計7回の施術で症状は大幅に改善し、施術期間中に大きな再燃や新たな症状の出現は認められませんでした。

使用したツボ(施術部位)

次髎

骨盤周辺にあるツボ。左側の肩甲骨の間や首の緊張を間接的に緩める目的で使用しました。

胞肓

臀部にあるツボ。みぞおち周辺(特に横隔膜)の緊張を整え、呼吸のしやすさを改善する目的で使用しました。

曲泉

膝の内側にあるツボ。腹部の緊張を緩めるために使用しました。

条口

下腿にある東洋医学のツボ、腹部全体の張り感の改善を目的に使用しました。。

三陰交

下腿にある東洋医学のツボ、腹部(特に下腹部丹田)と背部の緊張改善を目的に使用しました。

まとめ:症状の分析

今回の症例で重要だったのは、電車に乗ることへの不安と、呼吸のしづらさを伴う身体の緊張が重なっていたことです。

パニック障害では、動悸や息苦しさなどの身体症状が突然現れ、それをきっかけに強い恐怖や不安が生じることがあります。

さらに、一度電車内で発作を経験すると、次に電車へ乗る際にも「また息苦しくなったらどうしよう」と考えるようになり、不安が強くなることがあります。

このような予期不安は、パニック障害に特徴的な症状の一つです。

 

当院では、こうした不安症状に対して、精神的な問題だけでなく、身体の緊張状態にも目を向けています。

今回の患者さんでは、左側の肩甲骨の間と首に強い張りがあり、さらにみぞおち周辺にも硬さが認められました。

背中の筋肉や肋骨周辺の緊張が強くなると、胸郭の動きが小さくなり、深い呼吸がしづらく感じられる場合があります。

また、みぞおち周辺の緊張は、横隔膜を含む呼吸運動と関係している可能性があります。

そこで当院では、次のような身体と不安の悪循環が生じていた可能性を考えました。

 

首・肩甲骨の間・みぞおちの強い緊張

↓

呼吸が浅く、息苦しさを感じやすい

↓

呼吸に連動して心拍も早くなり、動悸を引き起こす

↓

電車内での身体症状が不安を強める

↓

予期不安によってさらに身体が緊張する

 

もちろん、筋肉の緊張だけでパニック障害の発症原因を説明できるわけではありません。

しかし、今回の患者さんでは、実際に首や背中、みぞおちに強い緊張があり、初回の鍼施術後から呼吸のしやすさや睡眠に変化が現れました。

そのため、身体の緊張を整えることが、この患者さんの症状改善を支える一つの方法になったと考えています。

 

また、今回の症例で特に注目したいのは、呼吸が楽になったことだけでなく、電車に乗れる距離が徐々に延びていったことです。

最初は短距離の移動から始まり、最終的には県外への電車移動も可能になりました。

これは単に身体の不快感が軽減しただけでなく、日常生活における行動の制限も小さくなったことを意味しています。

 

パニック障害の治療では、医療機関で行われる薬物療法や認知行動療法などが重要です。鍼灸は身体の緊張や呼吸に伴う不快感を和らげる補助的なアプローチとして役立つ可能性があります。

鍼灸TAKAでは、電車や会議室など特定の場所で起こるパニック症状についても、不安の現れ方だけでなく、首肩や背中、腹部の緊張、呼吸の状態まで丁寧に確認しています。

今回のように、身体の緊張を整えることが呼吸のしづらさの軽減につながり、結果として電車に乗ることへの不安や日常生活の制限を減らす一つのきっかけになると考えています。

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